●虫歯の始まりはミュータンス菌から
口の中には非常に多くの細菌が生息していますが、その中で虫歯の原因菌となる細菌はおもに2種類です。
虫歯が発生する際、最初に登場するのは、ストレプトコッカス・ミュータンスという細菌です。
ミュータンス菌はオギャーとこの世に生まれたときには、口の中にはいません。しかし、虫歯を経験した人の口の中には必ずいますから、お母さんなどの唾液を介していつの間にか赤ちゃんの口にも入り込んでしまいます。
ミュータンス菌の餌は甘いものですから、糖質が口に残っているとミュータンス菌はどんどん増殖します。そして歯の表面に「グルカン」と呼ばれるネバネバしたものを出して、以前こちらのブログで説明したバイオフィルムをつくっていくのです。
バイオフィルム内でさらに増殖したミュータンス菌は、今度は強い酸を出します。この酸が歯のいちばん外側を守っている硬いエナメル質を溶かしていきます。これが虫歯の始まりです。
●歯にできる白い斑点は虫歯の始まり
歯のエナメル質は薄いガラスのように透明ですが、ミュータンス菌の酸に触れると白く着色されてきます。これは虫歯の進行度で、いわゆる「CO」の状態です。
あなたの歯の中で、くっきりと白く色づいている部分がありませんか。もしあれば、それは虫歯への兆候です。
しかし、この段階ではもちろん削る治療は必要ありません。
ただし、歯科衛生士さんにバイオフィルムを取ってもらい、虫歯の進行を止める薬を塗り、キシリトールやリカルデント(牛乳タンパクの一種)入りのガムを噛んだり、フッ素(フッ化第一スズ)入りのハミガキ剤でハミガキを続けていきましょう。
●虫歯を進行させるのはラクトバチラス菌
しかし、白くなった部分を放置しておくとさらに酸に溶かされ、やがてエナメル質に小さな穴が開きます(C1)。
すると、この穴にもう一つの虫歯菌が入り込んで棲みつきます。
これが虫歯をつくる二番手の細菌、ラクトバチラス菌です。
ラクトバチラス菌というのは、乳酸菌の一種です。ヨーグルトなどさまざま な食品に普通に含まれているので、口の中にも普通に存在しています。
ラクトバチラス菌は、歯の表面では増殖しません。しかし、エナメル質に穴があれば逃げ込むように入り込み、そこで増殖します。そして同じように酸を出し、歯の象牙質まで溶かして入り込んでいきます(C2)。
●痛みが出るのはかなり進行してから
ラクトバチラス菌などが象牙質をどんどん溶かしているときも、本人は気づかないことがほとんどです。まだ痛みを感じていないからです。
しかし、さらに象牙質を突き破って歯髄まで達すると、そこには痛みを感じる神経があります。
コーヒーやスープなど熱いものを飲んだときに沁みるよう になり、やがてズキズキするような激しい痛みになります(C3)。
これは「歯髄炎」と呼ばれる状態です。
●治療しないで放置すると、なぜか痛みは消える
しかし、ガマン強い人もいるもので、それでも歯科医院で治療を受けない人も少なくありません。それくらい歯医者さんが嫌いなのかもしれませんが、それは間違いで、そこまで受診しないから、あとあと大変な思いをすることにな るのです。
歯髄炎の状態をガマンして放置していくと、いつの日か気づいたら痛みはなくなっていた、ということになります。
しかしもちろん、治ったわけではありません。とうとう神経が死んでしまったのです(C4)。
やがて歯の根っこで炎症が始まります。
●歯の根に膿がたまる
あれほど痛かったのに歯科医院へ行かなかったのですから、痛みがなくなれば、よけいに行くわけがありません。でもそれは、虫歯がさらに進行したことを示しているのです。
こうなると、いよいよ歯の根っこの部分の炎症がひどくなり、虫歯菌は歯根部から歯を飛び出して歯槽骨にまで入り込みます。歯の根っこの部分には細菌と膿がたまっている状態になります。
それでも症状は硬いものを噛んだときの違和感程度で、痛みはさほど感じないこともよくあります。それは、体の免疫力と虫歯菌の勢力バランスがとれている状態です。
しかし、睡眠不足やストレス過多などで疲れが出たりすると、この勢力バランスが崩れ、虫歯菌が優位になって、痛みが出ます。
病巣となっている根の中に消毒薬を入れて症状を緩和させることはできますが、はびこっている菌を完全になくしてしまうことは困難です。
次回は『歯周病って、どんな病気?』というテーマでお話ししていきます。