●知らずに入った歯のヒビが原因で……
「虫歯なんてないのに歯が痛い」と言って来院する患者さんがいます。肉眼で診察しても、患者さんの訴えるような虫歯は見えません。
しかしレントゲン検査を行うと、内部で虫歯になっていることがわかるのです。
よく見ると、その歯には小さなヒビが入っていた……。
こういうことは意外に多いのです。
虫歯の痛みはないが冷たいものや温かいものを口にすると歯が沁みる、しかし歯を見てもどこにも悪いところがない、知覚過敏かと思って受診したら、歯の一部が小さく割れていた、というようなこともよくあります。
歯にヒビが入ると、その割れ目から虫歯菌が入り込みます。
歯周病菌や虫歯菌などの悪玉菌は酸素を嫌いますから、狭いところが大好きです。
どんどん奥へ入り込み、そこに虫歯をつくってしまうのです。
歯の見た目は、まったく変わりません。
本人が気づかないまま虫歯が進行するので、わかったときには根のほうまで進んでいることもあります。
歯にヒビが入る、小さく割れることは、決して珍しいことではありません。
そのほとんどは、昼間の「くいしばり」や睡眠中の「歯ぎしり」が原因になっています。くいしばりや歯ぎしりは歯周組織に大きな力を加えるので、歯周組織のダメージも大きく、歯周病を悪化させることもあります。
●ほとんどの人は歯ぎしりをしている
「私は歯ぎしりはしないから大丈夫」そう考える人は多いと思いますが、しかし実はほとんどの人が知らずに歯ぎしりをしていることがわかっています。
歯ぎしりは、浅い眠りのレム睡眠中に始まります。
睡眠中は誰でも2時間おきくらいにレム睡眠になっていますが、一般的に8時間の睡眠のうち合計15分間くらいは歯ぎしりをしているといわれています。
激しく歯ぎしりをする人は、それが1時間前後にも及びます。
噛む力というのは想像以上に強いものです。睡眠中の歯ぎしりの力はとくに強く、食事のときに噛む力の2倍にもなります。
それが毎晩続くのですから、歯がすり減ったりヒビが入ったり、歯周組織がダメになるのも当然でしょう。
また、力をこめた歯ぎしりによって、あごの関節を痛めてしまうこともあります(顎関節症)。
●歯ぎしり予防のための「ナイトガード」
歯ぎしりは無意識にやっているものですから、自分の意志ではやめられませ
ん。
大きな原因の一つが、やはりストレスだといわれています。心の中の葛藤が、睡眠中の歯ぎしりに現れるのです。
その日のストレスは、その日のうちに解消できるように、日々のリラックス法を持っていることは大切です。
また肩や首、顔の筋肉がこっていると歯ぎしりしやすいといわれるので、これらの筋肉をリラックスさせることも有効です。
就寝前に、両頬からあごにかけての筋肉(咬筋)をマッサージしてみましょう。
枕の高さや布団の硬さなど、眠る環境も重要です。高い枕は首への負担が大きく、また歯ぎしりをしやすいので注意します。
歯ぎしりがひどい人は、歯科医院で「ナイトガード」をつくってもらうこともできます。
自分専用に型取りしてつくる、歯のカバーのようなものです。
患者さんの症状が歯ぎしりによるもので、ナイトガードによって軽減するという判断になれば、健康保険でつくることができます。
次回は『歯には、すごい力がかかっている』というテーマでお話ししていきます。