●ハミガキの目的を再認識しよう
口腔衛生のセルフケア、その基本はもちろんハミガキです。
ハミガキに始まってハミガキに終わる、といってもよいでしょう。
プロローグで述べたように、まずハミガキの意識を変えなければいけません。
ハミガキは毎朝起きたときに形式的に行うことではなく、歯の健康のため、ひいては全身の健康のために行うべきことです。
当たり前ですが、ハミガキには目的がある、ということを思い出してほしいと思います。
それは、歯についた莫大な数の細菌をハミガキできれいに洗い流す、という目的です。
口の中には、数百種類、数千億個もの細菌がいるといわれます。
ハミガキをしたあとでさえ、そうなのです。
ハミガキをしなかったら、その数は加速度的にどんどん増えていくでしょう。
放っておけば増える一方の口内細菌は、なくすことはできなくても、ハミガキで数をコントロールすることはできます。
口の中の細菌はプラーク(歯垢)の中にたくさん生息しています。
ハミガキの目的は「プラーク・コントロール」といえるでしょう。
●毎食後にハミガキを
ハミガキで除去したい細菌は、微生物です。
生きものですから、エサがなければ増殖しません。
しかし、口の中に食べ物を入れないわけにはいきません。
食事をやめるわけにはいかないからです。
口の中に食べ物を入れて噛んで食べると、必ず、小さなカスが歯のどこかにくっついて残ります。
これが細菌のエサになり、プラークになっていきます。
そこで、何かを食べたあとは必ずハミガキをする、ということを習慣づけましょう。
ハミガキは、ただ寝起きにやればいいということではありません。
ハミガキには目的があるのですから、的確な対策を立てて合理的・効果的に行わなければいけません。
●「ハミガキではきれいになっていない」を前提に
「口腔衛生」あるいは「プラークコントロール」という目的を意識しないでハミガキをしていると、いくら頑張っても口の中の衛生状態は芳しくなりません。
進んだ歯周病で来院する患者さんも、「ハミガキはしているんですけどね」とは言うのです。
「磨いている」と「磨けている」は違う、ということです。
目的をしっかり意識してハミガキをしていると、「これで磨けているかな」といつも感じるはずです。
鏡を見ながらハミガキをしても歯のすみずみまで完全に見ることはできませんし、見えたところでバイオフィルムが取れたのか、プラークを除去できたのか、肉眼ではわかりません。
厳密に調べれば、いかに上手に完全に磨いたとしても、あちこちに磨き残しがあるものです。
そうした「事実」を知っていれば、ハミガキもおのずとていねいになってくるでしょう。
ハミガキだけで口内細菌をゼロにすることはできませんが、「磨けている」という状態にはできます。
ただ磨くのではなく、磨けている状態を思い描いて、正しくていねいに磨きましょう。
●ハミガキの正しいやり方を知る
そしていちばん大切なことが、ハミガキをはじめとする口腔衛生の正しい方法を知り、実践し、継続する、ということです。
口腔衛生を意図したハミガキは、決して簡単ではありません。
ただむやみに回数をやればいいというものでもないし、力まかせにやっても良くありません。
ハミガキには、職人技があることを知ってください。
それはきちんと覚え、練習し、しっかりとマスターしなければならない技術なのです。
完璧に行うことは簡単ではないかもしれませんが、毎回実践していけば必ず身につきますし、上達していきます。
そうなれば、もう以前の「ただ磨いていた」ころのいい加減なハミガキに戻ることはありません。
それはあなたの人生の貴重な財産になるはずです。
第1章で紹介した「つるつるハミガキ法」を、ぜひ実践してみてください。
●舌磨きの効能
お口の中というとまず「歯」を考えますが、実は「舌」も忘れることはできません。
舌の健康もとても大事です。
最近、岡山大学大学院の研究グループが、「舌表面の汚れ(舌苔)の付着面積が大きい人は、呼気中のアセトアルデヒド濃度が高い」という研究結果を発表しました。
口腔内のアセトアルデヒドは、口や喉のガンの原因になるといわれています。
つまり今回、舌苔とガンの関係が強く疑われるようになったのです。
舌は健康な状態では、ピンク色をしています。
しかし舌苔があると、それが白や黄色、あるいは緑色や黒っぽい色になってしまいます。食べ物のカスや細菌など、さまざまな汚れが苔(コケ)のように付着しているからです。
これまでは、お口の中のアセトアルデヒドの発生原因としては、タバコやお酒が考えられていました。
しかしこの研究によって、舌苔からもアセトアルデヒドが発生していることが確認されたわけです。
つまり、お口の中を清掃して舌苔を取り除けば、ガンのリスクを減らせることが考えられます。
ですから、歯の清掃だけでなく、舌の健康管理もぜひ行っていただきたいと思います。
あまりゴシゴシやると味がわからなくなってくるなどの欠点も出てきますが、舌ブラシでやさしく舌を磨く習慣を身につけてみてください。
次回は『自分で行う口腔ケア②』というテーマでお話ししていきます。