●症状に気づいてからでは遅すぎる!
なぜ中高年になると、歯を失うことになるのでしょうか。
多くの人が、虫歯になることをこわがっています。
確かに虫歯の痛みは眠れないほどひどいものです。
でも、治療も痛いと思い込んでしまい、かなり進行してから歯科を受診する人も少なくありません。
しかし、もっとこわいのは歯周病です。
歯周病菌は歯と歯ぐき(歯肉)の間から奥深く入り込んでいき、そこで炎症を起こします。
痛みはなく、熱いものを食べるとうずく程度ですが、歯の奥底のほうでは免疫細胞である白血球と歯周病菌の闘いが繰り広げられています。
その影響によって、歯槽骨が溶か(吸収)されてしまいます。
患者さんは、歯がぐらぐらになるまで気がつかないこともあります。
「歯がぐらぐらするようになって受診したが、もうこの歯は助からない、と言われた」というケースも少なくありません。
●1本の歯を失うとドミノ倒しのように次々と……
最初に1本の歯を失うことは、非常に重要な問題になります。
連鎖反応のように、次々に歯を失っていく危険が高まるからです。
口の中の歯の並びは、食べたものをうまく噛めるように、実に巧妙にできています。
トウモロコシの実のように隙間なくしっかりと歯が並んでいるのは、
お互いに力のバランスを取り合うためです。
そのバランスは、うまく噛むために欠かせません。
ところがたった1本の歯を失っただけで、そのバランスが変化します。
まず、失った歯のあとには大きな空間ができますから、
隣の歯は少しずつこの空間のほうに倒れていきます。
また、力のバランスが崩れて噛み合わせが悪くなるため、
特定の歯に大きな力がかかってしまうようになります。
噛む力というのはすごいもので、それによって歯そのものはもちろん、
歯周組織(歯を支えている骨や歯ぐき)が壊されてしまうのです。
くいしばりや歯ぎしりの習慣がある人、片側ばかりで噛むクセがある人は、
とくにその危険が高まります。
歯を失うのは、たいてい奥のほうの歯から始まります。
左右の奥歯がダメになると、やがて上の前歯に負担がかかるようになり、
こちらも悪くなっていきます。
●口腔衛生への意識を高めよう!
歯は、最初に1本を失うと、それから急速にほかの歯も失われていく危険が高いのです。
このドミノ倒しのような現象を起こさせないためには、
とにかく1本も歯を失わないようにすることです(もちろん、1本を失ってしまった人もインプラント、ブリッジ、入れ歯により咬合を回復させる方法はあります)。
そのためにも、歯周病や虫歯の予防が重要です。
これは歯科医や歯科衛生士がいくら頑張っても、予防はうまくいきません。
第一に、自分の口の中にもっと関心をもつこと、
口腔衛生への意識を高めることが大切になってきます。
●方法は簡単、「口の中をきれいにしておく」ということ
「痛くなったら歯医者さんへ行く」という意識のままでは、
結局は歯を1本、2本と失っていく道をたどるリスクが高くなります。
それは引き返すことのできない道です。
そこに入り込まないことが重要です。
そのために口腔衛生への意識を高め、毎日の口腔ケアをしっかり行うことで、
虫歯や歯周病を予防していかなければなりません。
虫歯も歯周病も、菌による感染症です。
口の中には、何千億もの細菌がいるといわれています。
ほとんどが無害の菌といわれていますが、
中には虫歯を起こす菌(虫歯菌)も歯周病を起こす菌(歯周病菌)もいます。
無害の菌がたくさんいると、
歯周病菌などの悪玉菌が増える下地ができやすいことがわかっています。
したがって、口内細菌の数を減らしておくこと、その状態をいつも維持していくことが、虫歯や歯周病のいちばんの予防法なのです。
簡単にいえば、口の中をきれいにする、ということです。
●プロフェッショナルケアとセルフケアの両輪で
毎日のハミガキは、口腔衛生の基本です。
これを毎日しっかりやるかやらないかで、
中高年以降のあなたの人生が変わるともいえるでしょう。
毎日の積み重ねが大切です。
しかし、自分でハミガキをしていても、届きにくいところがあります。
そういうところに歯周病菌や虫歯菌はひそんでいて、増殖しているものです。
そこで、3か月から半年に一度は歯科医院へ行き、歯科衛生士に特別な器具を使って、
ふだんきれいにできない部分の歯垢(プラーク)や歯石を取ってもらうことが不可欠になってきます。
自分の歯を一生保つための口腔ケアは、
毎日の「セルフケア」と、定期的な「プロフェッショナルケア」の両方が必要なのです。
理由をもう一度くり返せば、ハミガキなどの毎日のこまめなセルフケアだけでは、
磨き残しがたまってくるからです。
歯垢は毎日付着するので、3か月程度に一度のプロフェッショナルケアだけでも十分とはいえません。
セルフケアとプロフェッショナルケアは、クルマの両輪と覚えておきましょう。
片方だけでは、口腔ケアはうまくいかないのです。
次回は『歯医者さんで行う予防』というテーマでお話ししていきます。